AI Work MASTERとは|AI時代の業務設計モデル
AI Work MASTERとは、GiftXが提唱する業務設計モデルです。業務の目的と流れを見える化し、人とAIの役割を決め、AIが働くための材料と判断基準を整え、実務で試して確かめ、繰り返せる業務の型として残します。AI活用のフレームワークの多くが組織全体の成熟度や導入方針を扱うのに対し、MASTERは目の前の業務ひとつを設計するためのフレームワークです。
主語はビジネス職の担当者・チーム・管理者で、対象は成果物ひとつの作り方ではなく、繰り返し発生する業務そのものの設計です。個別ツールやプロンプトの使い方ではなく、業務の目的・流れ・分担・判断基準・確認方法までをつなぐことを目的にしています。終わったとき、次回も使える業務の型が残ります。
6つの段階で業務の型をつくる
MASTERは、Map・Assign・Set up・Try・Evaluate・Repeatの頭文字をつないだ名称です。
- M|Map(業務工程の見える化):何のために、どこを変えたいかを見える化します
- A|Assign(人とAIの分担):AIに任せる範囲と人が担う範囲を分担します
- S|Set up(材料と基準の整備):AIに何を渡し、何をよしとするかを整えます
- T|Try(実務での試行):実務に近い条件で機能するかを試します
- E|Evaluate(採否の判断):業務の進め方として採用できるかを確かめます
- R|Repeat(業務の型化):次回も同じ基準で進められる形にして残します
6段階を通してつくるのは、新しいツールでも専用システムでもありません。目的・流れ・分担・材料・判断基準・確認方法・見直し条件を一つにまとめた、業務の型です。小さな業務なら、6段階を一枚のシートで終えてかまいません。
設計は一度終わり、運用は回り続ける
MASTERは6段階を通ると終わります。Repeatまで進んだら、そこからは業務の型に沿って業務を繰り返します。設計は一度終わり、運用は回り続けます。だからMASTERは一方向のモデルになります。ここでいう一方向とは、設計が終われば運用へ移るという意味で、途中で前の段階へ戻ることを禁じるものではありません。
見直すのは、次の3つのどれかが起きたときです。使っているAIが変わったとき、業務の前提が変わったとき、求める品質が変わったときです。この3つに当たらないうちは、型をそのまま使い続けてかまいません。
大切なのは、見直す条件と、見直す人をRepeatの時点で決めておくことです。ここが空欄のままだと、AIの仕様が変わっても誰も気づかず、いつの間にか型と実態がずれます。逆にこの2つが埋まっていれば、設計はいったん終わらせて問題ありません。
一回の単位は「繰り返し発生する業務」ひとつ
MASTERの一回は、一定の目的・入力・判断・出力が繰り返される業務をひとつ選び、試して確かめ、繰り返せる形に残すまでです。
適用範囲は、営業、企画、採用、CS、マーケティング、管理業務など、この条件を満たす業務全般です。具体的には提案準備、問い合わせ対応、調査、レポート作成、審査や確認の作業などが当てはまります。一度きりの企画やイレギュラー対応は、繰り返す前提がないため対象になりません。
逆に言えば、月に何度も発生していて、そのたびに担当者が同じことを考え直している業務ほど、MASTERを当てる価値が大きくなります。
始める前に決める3つのこと
大がかりな準備は不要です。最初に決めるのは次の3つだけで足ります。
- 試す業務:繰り返し発生していて、変えたい課題がはっきりしている業務をひとつ選びます
- 確認する人:AIの出力を確かめ、最終的に責任を持つ人を決めます
- 外せない制約:共有してよい情報の範囲、品質やブランドの基準、法務や個人情報の条件を確認します
とくに曖昧になりやすいのは2つ目です。AIに任せる範囲は試しながら変えてかまいませんが、確認する人と最終責任者だけは最初に決めておきます。ここが決まっていないと、Tryで出力が出たあとに誰も判断できず、業務に組み込む手前で止まります。
AI活用前と活用後で、業務の進め方はどう変わるか
AIが入って変わるのは、業務の工程そのものではありません。工程のどこを人が担い、どこをAIに任せるかを、あらかじめ決めておけるようになった点です。進め方の置き場所、良し悪しの決め方、次回の始まり方の3点で、AI活用前と活用後を並べて比べます。
AI活用前|担当者ごとに使い方と品質がばらつく
AI活用前は、業務の進め方が担当者の頭の中にありました。手順書があっても、実際の判断や例外処理は経験で補われ、文書に残るのは表面的な流れだけという状態です。
ここにAIを部分的に持ち込むと、ばらつきはむしろ広がります。プロンプトの書き方も、どこまで任せるかも、出力をどこまで直すかも人によって違うためです。うまくいった進め方が個人の工夫のまま留まり、次の人に渡りません。
AI活用後|任せる範囲と判断基準を決めてから動かす
MASTERを通すと、順番が変わります。先に業務の流れを見える化し、任せる範囲と確認者を決め、AIに渡す材料と合否の基準をそろえてから動かします。
この順番の効果は、試行の結果を比べられるようになることです。基準を決めずに試すと、出力の良し悪しが感想になります。先に基準があれば、続けるか、変えるか、止めるかを理由つきで判断できます。判断の理由が残るので、後から見直すときも前提から確認し直さずに済みます。
変わらないのは、人が責任を持つ部分
AIができるのは、速く試す、整理する、つくる、比較するところまでです。目的を決める、任せる範囲を決める、確かめる、責任を持つ部分は人に残ります。
この線引きはAI活用の前後で動きません。動くのは、人が手を動かす作業量と、判断に使える材料の質です。作業が減った分をそのまま件数の増加に充てると確認が追いつかなくなるため、空いた時間はEvaluateの確認と、Repeatで型に残す作業に配分します。
MASTERの6段階|各段階でAIが支援すること、人が決めること
ここからは6段階を順に見ていきます。各段階を、入口となる状態、中心となる問い、AIと人の分担、そして出口の順に整理します。
M|Map(業務工程の見える化)
Mapの問いは「何のために、どこを変えたいか」です。繰り返し発生する業務と、変えたい課題があることが入口になります。
AIは、既存資料やログの整理、開始条件・入力・工程・判断・出力の洗い出し、手戻りや時間や品質の課題整理、改善余地の仮説づくりを支援します。人が決めるのは、業務の目的、対象範囲、品質と時間とコストの優先順位、そして今回は変えない部分です。
出口は、目的・開始条件・入力・主な流れ・判断・出力・現在の課題を一枚で説明できる状態です。業務を分けて人とAIの役割を考え始めた時点で、次のAssignに移っています。
A|Assign(人とAIの分担)
Assignの問いは「何をAIに任せ、何を人が担うか」です。目的と業務の流れが見えていることが入口になります。
AIは、任せられる作業の候補出し、支援・協働・自動化の分け方の整理、確認が必要な箇所の洗い出し、リスク別の分担案づくりを支援します。人が決めるのは、AIに任せる範囲、人が判断する箇所、AIを使わない箇所、確認者、最終責任者です。
出口は、試行時の分担と確認者と最終責任者が明確になっている状態です。任せる範囲はこの時点では仮決めでよく、TryとEvaluateを経て更新します。AIが働くための材料と基準を整え始めたら、Set upに入っています。
S|Set up(材料と基準の整備)
Set upの問いは「AIに何を渡し、何をよしとするか」です。試行時の役割分担が決まっていることが入口になります。
AIは、前提・材料・例・指示の整理、不足情報の洗い出し、出力形式やチェック項目やテンプレートの作成を支援します。人が決めるのは、共有してよい情報、正しい参照元、品質やブランドや法務や個人情報などの制約、そして合否の判断基準です。
出口は、指示・入力・参考例・制約・出力形式・評価基準がそろい、小さく試せる状態です。ここで基準を決めきらずに進むと、Evaluateで比べる物差しがなくなります。材料が揃わないと分かった場合は、Assignの仮決めへ戻ってかまいません。実際の業務に近い条件で動かし始めたら、Tryに入っています。
AIエージェントを「どう作り、どう育てるか」を、GiftX記事制作エージェントの実物で解説。
T|Try(実務での試行)
Tryの問いは「実務で機能するか」です。試行に必要な材料と基準があることが入口になります。
AIは、実データに近い条件での実行、複数案の生成、出力や所要時間や人の修正の記録、例外ケースの試行を支援します。人が決めるのは、試す範囲と件数と期間、例外の扱い、止めるときの条件、そしてそのまま使ってよい出力かどうかです。
出口は、限定した範囲で試行し、条件・入力・AIの出力・人の修正・時間・結果を追える状態です。資料やプロンプトを整えただけではTryになりません。事前の基準と実際の結果を比べ始めたら、Evaluateに入っています。
E|Evaluate(採否の判断)
Evaluateの問いは「業務の進め方として採用できるか」です。試行結果と評価基準があることが入口になります。
AIは、品質差や誤りや修正負荷や時間や成果の比較、失敗パターンとリスクの整理、改善案の作成を支援します。人が決めるのは、続けるか変えるか止めるか、基準を満たすか、許容できるリスクか、役割分担を確定できるかです。
出口は、採用・変更・停止の判断と、その理由が記録されている状態です。ここで初めてAssignの分担が確定します。採用するなら次のRepeatへ進み、止めるなら理由を記録して終了します。変更する場合の戻り先は、後述のとおり原因によって分かれます。
R|Repeat(業務の型化)
Repeatの問いは「次回も同じ基準で進められるか」です。採用するやり方と、その理由が決まっていることが入口になります。
AIは、手順・AIに渡す情報・テンプレート・チェックリスト・FAQ・更新履歴の整理と、共有できる形への変換を支援します。人が決めるのは、何を基本にするか、例外の扱い、使う人、更新責任者、見直す条件、そして最終承認です。
出口は、目的・流れ・分担・材料・判断基準・確認方法・見直し条件をまとめた業務の型が完成した状態です。ここから先は業務の型に沿って業務を繰り返し、AI・前提・品質が変わったときだけMapへ戻ります。
MASTERの設計がどこまで進んだかは、作業名ではなく「揃ったもの」で分かる
業務の設計を進めていると、自分たちがどこまで終わったのかが分からなくなります。原因は、作業の名前で進捗を測ってしまうことです。プロンプトを整えたからSet upは済んだ、何件か試したからEvaluateは済んだ、とは限りません。
MASTERでは、段階ごとに「これが揃ったら次へ進める」という条件を先に置きます。判定に使うのは作業量ではなく、次の6つが手元にあるかどうかです。
| 段階 | 終えたと言える条件 | 取り違えやすい点 |
|---|---|---|
| Map → Assign | 目的・流れ・課題を一枚で説明できる | いきなりAIを入れる場所を探すだけではMapは未完了 |
| Assign → Set up | 試行時の分担と、確認者・最終責任者が決まった | 任せる範囲は仮決めでよいが、確認者と最終責任者は曖昧にしない |
| Set up → Try | 指示・材料・参考例・評価基準がそろい、小さく試せる | 資料やプロンプトを整えただけではTryではない |
| Try → Evaluate | 条件・出力・人の修正・時間・結果を追える | 試して感想を述べるだけではEvaluateではない |
| Evaluate → Repeat | 採用・変更・停止を理由つきで決めた | 変更後を試さずにRepeatへ進まない |
| Repeat → 運用 | 業務の型と、見直す条件・更新責任者が決まった | 見直し条件に当たったときだけMapへ戻る |
「検証中です」という報告からは、Tryの最中なのかEvaluateに入ったのかが分かりません。作業の名前ではなく上の条件で聞き返すと、設計がどこまで進んだかがその場で確定します。
進んだつもりで止まりやすい3つの場面
設計が止まりやすい場面は、おおむね3つに決まっています。いずれも手は動いているのに、その段階の出口には届いていません。
1つ目は、プロンプトやテンプレートを整えた場面です。作業として一区切りついた感覚になりますが、実データに近い条件で動かしていなければ、まだSet upの中です。整った資料は、試していないことの証明にはなりません。
2つ目は、何件か試して「思ったより使えそう」と感じた場面です。感想は評価ではありません。事前に決めた基準と結果を照らして、続ける・変える・止めるのどれかを理由つきで選んで初めて、Evaluateの出口に立ちます。
3つ目は、型ができているのに毎回設計し直している場面です。Repeatは通常運用の入口であって、6段階を毎回まわし直す合図ではありません。業務の型ができたら、そこからは型に沿って業務を繰り返し、Mapへ戻るのは見直し条件に当たったときだけです。
Evaluateで分かれる3つの出口
MASTERで唯一、進む先が分かれるのがEvaluateです。判断は次の3つに分かれます。
採用する場合はRepeatへ進み、業務の型として残します。止める場合は理由を記録して終了します。この業務にはまだ向いていないという結論も、記録として残せば次の判断材料になります。
変更する場合は、原因によって戻り先が変わります。出力の質が基準に届かないならSet upへ、確認の負荷や責任の置き方に無理があるならAssignへ、対象業務や目的の選び方がずれていたならMapへ戻ります。どこが原因かを言えないまま戻ると、同じ結果を繰り返します。
止めるという結論を明示的に置いているのは、判断を先送りさせないためです。何となく試行が続いている状態は、採用でも停止でもないまま人の時間だけを使います。理由を書いて終える判断も、正当な出口です。
MASTERのRepeatで何を業務の型に残すのか
業務の型とは、次回も同じ基準で業務を進めるために、目的・流れ・分担・材料・判断基準・確認方法・見直し条件を使える形で一つにまとめたものです。ここが弱いままだと、何度試しても担当者の記憶に戻ってしまいます。なお以下では、GiftXが提唱するもう一つのモデルであるAI Marketing SPIRAL(マーケティングを回すための循環モデル。後半で解説します)にも触れます。
業務の型に残す4種類
残すものは4種類です。順に見ていきます。
| 残すもの | 内容 | 残し方の例 | 次回に変わること |
|---|---|---|---|
| 目的・業務の流れ | 目的、開始条件、入力、主な工程、判断、出力、例外 | 一枚の業務マップ/手順/チェックリスト | 毎回の始め方と終わり方がそろう |
| 人とAIの役割 | AIに任せる部分、人が行う部分、確認者、最終責任者、使わない範囲 | 役割表/確認ルール/承認フロー | 責任を曖昧にせず、担当者が変わっても進めやすい |
| AIに渡す材料・判断基準 | 前提、入力、参考例、指示、出力形式、品質基準、制約 | 入力セット/テンプレート/評価チェックリスト | 出力と確認のばらつきを減らせる |
| 試行・評価の学び | うまくいった条件、失敗、例外、人の修正、時間や成果、見直し条件 | 試行記録/更新履歴/FAQ/改善メモ | 理由を失わずに改善でき、AIや前提の変化にも対応できる |
4種類のうち後回しにされやすいのは、4つ目の試行・評価の学びです。うまくいった条件だけを残すと、なぜその条件が要るのかが次の人に伝わりません。失敗した条件と、人がどこを直したかを併せて残すと、改善のたびに前提から議論し直さずに済みます。
日常の更新と、型の作り直しを分ける
業務の型は、一度つくったら固定するものではありません。ただし、更新の仕方は2種類あります。
日常的な更新は、マーケティング運用であればSPIRALのLearnが担います。人が直した箇所や反応から得た学びを、テンプレートや判断基準へ書き戻す作業です。マーケティング以外の業務でも役割は同じで、Repeatで用意した試行記録や改善メモがその受け皿になります。どちらの場合も、型そのものの骨格は変えません。
一方、前述の3つの見直し条件に当たった場合は、型そのものを作り直します。このときはMASTERのMapへ戻り、目的と流れの見える化からやり直します。日常の更新と作り直しを分けておくと、少し変えたいだけの場面で設計工程を丸ごと回さずに済みます。
大がかりな仕組みは要りません
業務の型と聞くと、専用システムや社内ポータルを想像するかもしれません。実際に必要なのは、次に同じ業務をする人が迷わない情報がそろっていることだけです。
小さな業務なら、一枚のチェックシートで十分に成立します。目的、始める条件、AIに渡すもの、人が確認する箇所、合格の基準、困ったときの連絡先が書いてあれば、型として機能します。仕組みの規模ではなく、次の人が同じ基準で始められるかどうかが判断軸です。
Repeatができたかを確かめる問い
Repeatが完了したかどうかは、次の問いで確かめられます。別の担当者が業務の型を見て、同じ業務を同じ基準で始め、確認し、完了できるか。
できないのであれば、型はまだ完成していません。とくに抜けやすいのは、例外の扱いと、判断に迷ったときの連絡先です。この2つが書かれていないと、型はあっても運用の途中で止まります。
全国8,000人調査で、AIの活用方法によって生産性向上に約3.8倍の差が生まれることが判明。
MASTERをチャットとAIエージェントのどちらで進めるか
設計の6段階は、汎用のチャット型AIツールだけでも進められます。ただし件数と頻度によって向き不向きが分かれるため、どこまでチャットで進め、どこからAIエージェントに移すかを先に決めておくと迷いません。
チャットで進める場合
MapとAssignとSet upは、チャットでも十分に進みます。現在の業務の流れを書き出して貼り、抜けている工程を指摘してもらう、AIに任せられる作業の候補を出させる、指示文と出力形式とチェック項目の案を作らせる、といった使い方です。
Tryも、1件ずつ手で流す形なら実行できます。月に数回しか発生しない業務や、対象が数件で終わる業務なら、チャットのままRepeatまで到達してかまいません。業務の型をテキストのチェックシートとして残せば、目的は達成できます。
つまずきやすいのは、件数が増えたときです。毎回同じ前提や参考例を貼り直す手間がかかり、貼り忘れると出力が変わります。実行の記録も自動では残らないため、Evaluateの比較が感想に寄りやすくなります。
AIエージェントで進める場合
AIエージェントに移すと、Set upで整えた材料と判断基準をあらかじめ持たせておけます。毎回貼り直す必要がなくなり、誰が動かしても同じ前提で実行されます。
Tryでは複数件をまとめて流せます。条件・入力・出力・人の修正・所要時間が記録として残るため、Evaluateで比べる材料がそろいます。採用が決まれば、Repeatで残した型がそのまま実行の設定になります。
向いているのは、毎日または毎週発生する業務、対象の件数が多い業務、複数人が同じ業務を担当する業務です。逆に、月1回で毎回条件が変わる業務は、エージェント化しても設定の維持コストのほうが上回ることがあります。
まずチャットで1周してから移す
迷ったときは、まずチャットでMapからTryまでを1周することをおすすめします。1周すると、どの工程が毎回同じで、どこが毎回変わるかが具体的に分かります。
そのうえで、毎回同じ作業が繰り返されていて件数も多いと分かった工程から、AIエージェントに移します。最初からエージェント化しようとすると、Set upで何を渡せばよいかが未確定のまま設定を作ることになり、作り直しが増えます。
AI Work MASTERとAI Marketing SPIRALの使い分け
GiftXは、業務設計モデルのMASTERとは別に、マーケティングの循環モデル「AI Marketing SPIRAL」を提唱しています。役割が重ならないので、どちらを使うかは場面で決められます。
MASTERは、業務にAIを組み込む設計のときに使います。対象は繰り返し発生する業務で、出口は繰り返せる業務の型です。SPIRALは、マーケティングを回す運用のときに使います。顧客理解から実行・改善・学習までを一周としてつなぎ、回すたびに次の一手を強くするモデルです。詳しくは関連記事:AI時代のマーケティング循環モデル「AI Marketing SPIRAL」とはで解説しています。
設計は一度終わり、運用は回り続けます。だからMASTERは一方向で、SPIRALは循環になります。2つを併せて使うときは、MASTERで業務の型をつくってから、その型に沿ってSPIRALを回します。たとえば記事制作という業務をMASTERで設計し、できた型に沿って企画から公開・改善までをSPIRALで回すという使い方です。
併せて説明するときの注意点が1つあります。S・A・Rの3文字が両方の段階名に現れるため、一文字だけで段階を指すと取り違えが起きます。図でも本文でも、英語名または日本語を併記します。
AI Work MASTERと既存フレームワークとの違い
業務改善やAI導入のフレームワークは既に数多くあります。MASTERが違うのは、対象が組織全体ではなく目の前の業務ひとつだという点です。代表的な2系統と比べます。
業務改善の管理サイクル(PDCA)との違い
PDCA(Walter A. ShewhartとW. Edwards Demingに関連、20世紀中盤)は、計画・実行・評価・改善の管理循環を扱います。主語は組織や業務担当で、MASTERと重なります。
違いは2点です。1つは、PDCAがAIを前提にしていないため、どの作業をAIに任せ、人が何を確認するかという分担を示さないことです。もう1つは、PDCAが回り続ける循環であるのに対し、MASTERはRepeatで設計を終わらせ、業務の型という成果物を残す点です。抽象度が高いまま形だけ回ってしまう状態を避けるための設計になっています。
AI導入の成熟度・基盤モデルとの違い
SalesforceのAgentic Maturity Model(2025年)は、AIエージェントの自律性と協調範囲を5段階で示すモデルです。IBMのAI Ladder(2018年頃)とGoogle CloudのAI Adoption Framework(2020年)は、企業のデータ・分析能力や組織的なAI能力の構築を扱います。
これらは組織全体がどの段階にいるかを測るためのもので、主語は経営やAI変革組織です。MASTERの主語は現場の担当者・チーム・管理者で、対象は目の前の業務ひとつです。成熟度モデルが現在地の把握に使えるのに対し、MASTERは明日から動かす1業務の設計に使えます。両者は階層が違うため、併用できます。
GiftXがMASTERで設計している業務
MASTERは、GiftX自身が社内業務にAIを組み込んできた過程から整理したモデルです。ここでは、実際にどう設計したかを3つ紹介します。
記事制作を10工程に分け、AIと人の分担を決めた
記事制作という繰り返し発生する業務を、Mapで10の工程に分けました。そのうえでAssignとして、キーワード調査から構成づくり、初稿の執筆までをAIが担い、担当者はレビューと最終調整に集中する分担にしています。
結果として、1記事あたりの作業時間は約4時間から約10分まで短縮され、工数を約95%削減しました。ここで効いたのは短縮率そのものより、どの工程で人が確認するかを先に決めたことです。10工程の分け方と分担の詳細は関連記事:AIで記事制作を自動化する仕組み|質と独自性を高める「AI編集部」のつくり方で紹介しています。
提案資料づくりを「スライド化の前」で切った
提案資料の作成では、Mapの段階で工程を洗い出したときに、時間がかかっているのはスライドを作る作業ではなく、その前の相手企業の調査と提案の骨子づくりだと分かりました。
そこでAssignで区切る位置を変え、調査と骨子づくりにAIを厚く使う設計にしています。工程を見える化してから分担を決めた例です。進め方は関連記事:AIで提案書を作る仕組み|商談を動かす資料は「スライド化の前」に決まるで紹介しています。
未経験の業務を立ち上げるときにも同じ順で進む
やったことがない業務を始めるときも、進み方は変わりません。調べ方を設計し、良し悪しを見分ける基準を決め、たたき台をつくり、一次情報で裏を取るという順序は、Map・Set up・Try・Evaluateの並びと重なります。
経験がない業務ほど、判断基準を先に言葉にしておく効果が大きくなります。詳しくは関連記事:「やったことがない」を「AIとならできる」に。未経験の仕事を立ち上げる進め方で解説しています。
1業務で通すときに陥りがちな3つのつまずき
6段階の意味が分かっていても、実際に1業務へ当てはめると別のところで止まります。GiftXが社内で設計し、支援先と一緒に設計してきた中で、繰り返し出てくるのが次の3つです。
つまずき1|毎回条件が変わる業務を選んでしまう
最初の対象に、重要だが毎回条件が変わる業務を選ぶ場合です。例外が多いため、Mapで流れを書き出す段階から分岐が増え、Set upで渡す材料も毎回変わります。Tryまで進んでも、結果が条件のせいなのか設計のせいなのか切り分けられません。
選ぶべきは、月に何度も発生していて、入力と出力の形が毎回ほぼ同じ業務です。提案準備の下調べ、問い合わせの一次回答、定例レポートの作成などが当てはまります。物足りなく見える業務のほうが、6段階を通しきるには向いています。
つまずき2|確認者と最終責任者を決めずに試し始める
分担表は埋めたのに、確認者と最終責任者の欄だけ空いたままTryへ進む場合です。担当者間で「良さそうだが自分の判断で通してよいか分からない」という状態が続き、出力は出ているのに業務へ組み込めません。
この空欄は、試行が終わってからでは埋めにくくなります。誰かの承認範囲を後から広げる話になるためです。確認者と最終責任者はAssignの時点で確定させ、Evaluateでは実際の負荷を見て、AIに任せる範囲のほうを調整します。
つまずき3|型を残す時間が工数に入っていない
Evaluateで採用と決まった瞬間に、その業務は日常の運用へ移ります。Repeatで型に残す作業は後回しにされ、結局は担当者の記憶に戻ります。
必要なのは大がかりな文書ではなく、前述の一枚のシートで足ります。抜けを防ぐ方法は単純で、Evaluateで採用を決めるときに、型を残す作業を誰の工数へ入れるかまで同時に決めておくことです。採用の判断とセットにすれば、後回しにできなくなります。
スモールスタートで1業務を通しきる
3つに共通するのは、設計を通しきる前に運用へ移ってしまうことです。まず1業務を選び、MapからRepeatまで通しきることをおすすめします。
1業務を通すと、AIに何を渡せばよいか、人がどこを必ず確認するか、何を型に残せば次回が楽になるかが具体的に分かります。その型ができてから対象を広げると、2つ目以降の設計にかかる時間は短くなります。設計から構築まで外部と進めたい場合は、AIエージェント構築支援サービスもご検討ください。
まとめ
AI時代の業務設計モデル「AI Work MASTER(マスター)」は、業務にAIを組み込む手順を6段階で整理したモデルです。Map(見える化する)、Assign(分担する)、Set up(整える)、Try(試す)、Evaluate(確かめる)、Repeat(残す)の順に進みます。
段階の判定は、作業の名前ではなく揃ったもので行います。Assignの分担は試行前の仮決めでよく、Evaluateで確定します。Evaluateでは採用・変更・停止のいずれかを理由つきで決め、変更する場合は原因に応じてSet upかAssignかMapへ戻ります。採用したときだけRepeatへ進みます。
設計は一度終わり、運用は回り続けます。出口に残るのは、次の担当者が同じ基準で始められる業務の型です。まず1業務を選び、MapからRepeatまで通しきるところから始めてください。
自社業務でAIエージェント活用を進めたい方へ
本記事で紹介したMASTERの進め方を、自社の業務でも具体的に進めたい・相談したいとお考えの方は、ぜひGiftX AIエージェント構築支援までお問い合わせください。
GiftX AIエージェント構築支援では、貴社の業務に合わせて1業務単位のスモールスタートから本番運用まで、AIエージェント構築をワンストップで支援します。ユースケースの洗い出しから、PoC、本番運用、社内ナレッジ化まで伴走します。
AI活用にご関心のある方は、ぜひ一度ご相談ください。