AI時代のマーケティング循環モデル「AI Marketing SPIRAL」とは

AI時代のマーケティング循環モデル「AI Marketing SPIRAL」とは
目次

AIで調査も制作も分析も速くなったのに、成果が積み上がっている実感がないという相談が増えています。速くなったのは個々の作業であって、6つの工程をつなぐ仕事の回り方ではないという状態です。

原因の多くは、AIを使う場所が工程ごとにばらばらで、市場に出したあとの反応が次の企画や初稿に戻っていないことにあります。本記事では、GiftXが提唱する、AI時代のマーケティング循環モデル「AI Marketing SPIRAL(スパイラル)」を紹介します。Scan(知る)からLearn(学ぶ)までの6段階、段階の見分け方、AIと人の分担、そしてGiftX自身がこのモデルでコンテンツ制作をどう回しているかまでをまとめました。

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AI Marketing SPIRALとは|AI時代のマーケティング循環モデル

AI Marketing SPIRALの6段階(Scan・Prototype・Improve・Reach・Adjust・Learn)を円環状に並べ、Learnから次のScanへ戻る循環を示した概念図

AI Marketing SPIRALとは、GiftXが提唱するマーケティングの循環モデルです。AIで速くつくり、人が磨き、市場の反応を学びに変えます。回すほど、次の打ち手の質が高まることを狙いにしています。数あるマーケティングのフレームワークの中では、顧客の行動ではなく企業側の仕事の回し方を扱う点が特徴です。

主語は企業・マーケター・マーケティング組織で、モデル化しているのは企業側の「仕事の回し方」です。個別のAIツールの使い方ではなく、顧客理解から実行・改善・学習までを一つの仕事としてつなぐことを目的にしています。

6つの段階を一周としてつなぐ

SPIRALは、頭文字がそのまま段階名になっています。かっこ内は、図や表で段階を指すときの呼び方です。

  • S|Scan(顧客・市場の把握):顧客・市場・自社から課題と機会を知ります
  • P|Prototype(AI初稿の作成):AIで試せる最初の形を速くつくります
  • I|Improve(AI初稿の改善):顧客へ届けられる品質まで仕上げます
  • R|Reach(顧客への配信):顧客接点へ届け、実際の反応を得ます
  • A|Adjust(反応後の調整):実際の反応をもとに現在の施策を直します
  • L|Learn(学びの蓄積):一周の結果から次に使えることを学び、次回の起点に残します

この6段階は、多くの現場ですでにばらばらに行われています。顧客データを見る人、初稿をつくる人、レビューする人、配信する人、レポートを書く人が別々に動き、それぞれの工程内でAIを使っている状態です。SPIRALが加えるのは新しい作業ではなく、6段階をひと続きの仕事として扱い、最後のLearnを次のScanにつなげるという設計です。

AIはPrototypeだけで使うものではありません。6段階すべてで、広げる・速くつくる・比較する・変換する・残す、という働きをします。一方で人は、目的を決める・選ぶ・確かめる・責任を持つという役割を担い続けます。

ImproveとAdjustは、市場へ出す前と後で分かれる

6段階のうち、ImproveとAdjustはどちらも改善です。混同を避けるために、SPIRALでは対象を名指して分けています。

Improveは市場へ出す前の改善です。人が確かめて、顧客へ公開できる品質に仕上げる段階を指します。Adjustは市場へ出した後の改善です。実際の反応をもとに、今の施策を変更・維持・停止のいずれかへ動かします。

この2つを分ける境目がReachです。Reachより前はすべて仮説で、Reachより後が実際の市場の反応になります。社内でどれだけレビューを重ねても、それはImproveの中の作業です。

なぜ「ループ」ではなく「スパイラル」なのか

同じ地点に戻る円をループと呼ぶなら、SPIRALは戻る位置が毎回変わる点で異なります。

Learnで得た学びは、次にAIへ渡す情報、自社の知識、判断基準、仕事の進め方に残ります。その結果、次の一周のScanやPrototypeは前回より高い起点から始まります。一周ごとに開始地点が一段上がるという意味を込めて、スパイラルと呼んでいます。

言い換えると、SPIRALの価値は一回の施策の成功そのものではありません。一度の成功を、次の初稿へ引き継げるかどうかにあります。回すたびに次のたたき台がよくなっている状態が、このモデルが機能しているサインです。

一周の単位は施策・コンテンツ単位で決める

一周の単位は、一つの検証可能な課題・仮説・打ち手を、市場の反応と次の学びにつなげられる範囲で決めます。粒度は目的に応じて変えてよく、施策単位、キャンペーン単位、コンテンツ1本単位のいずれでも成立します。

AIが入る前は、循環の周期が月次や四半期に固定されがちでした。調査にも制作にも分析にも人手の時間がかかるため、それより短い周期では一周しきれなかったからです。AIによって情報整理、初稿作成、複数案の比較、媒体変換、結果分析、修正版の作成が速くなり、コンテンツ1本や施策1つの単位でも一周を回しやすくなりました。

適用範囲は、顧客理解、打ち手、市場との接点、反応、次回への学習が存在するマーケティング活動全般です。コンテンツ、広告、CRM、SNS、ブランド、商品・価格、営業連携などが該当します。

回し始める前に決める4つのこと

SPIRALは、次の4つが決まっていることを前提にしています。どれかが欠けたまま回すと、途中の段階で必ず止まります。

  • 目的:今回の一周で何を変えたいのかを、事業目標と結びつけて決めます
  • 使える情報:顧客の声、商談メモ、実績データなど、AIに渡せる自社の情報を確認します
  • 結果の確かめ方:どの数字や反応を見て良し悪しを判断するかを、出す前に決めます
  • 最後に判断する人:公開してよいか、続けるか止めるかを決める責任者を1人決めます

とくに抜けやすいのは3つ目です。出したあとに何を見るかを決めないまま公開すると、Reachまでは進んでもAdjustに入れません。反応を見る準備がない状態は、一周が途中で切れている状態です。

AI活用前と活用後で、マーケティングの進め方はどう変わるか

AI活用前と活用後のマーケティングの進め方を、作業の主語・一周の周期・学びの行き先の3点で左右に対比した図

AIが入ることで変わるのは、工程の数ではなく、各工程で人が何をしているかです。作業の主語、一周の周期、学びの行き先の3点で、AI活用前と活用後を並べて比べます。

AI活用前|工程ごとに人が抱え、学びは個人に残る

AI活用前のマーケティングでは、各工程の作業そのものを人が担っていました。顧客データを手で集計し、構成をゼロから考え、初稿を書き、レビューを回し、媒体ごとに作り直し、レポートを手作業でまとめるという流れです。

この形の問題は、単に時間がかかることではありません。工程ごとに担当が分かれるため、途中の判断が引き継がれないことです。なぜこの訴求にしたのか、どこを直したのか、何が効いたのかは、担当者の記憶や個人のメモに残ります。担当が変わると、次の一周はまた同じ場所から始まります。

AI活用後|AIが広げて速くつくり、人が決めて残す

AI活用後は、作業の主語が入れ替わります。情報の整理、選択肢の生成、初稿の作成、媒体別の変換、結果の分解はAIが引き受け、人は対象・仮説・品質・変更の可否を決める側に回ります。

重要なのは、空いた時間の使い道です。作業時間が減った分をそのまま本数の増加に充てると、確認が追いつかず品質が落ちます。SPIRALでは、空いた時間をImproveの確認と、Learnの言語化に配分します。修正した理由を残し、次にAIへ渡す情報を更新することで、次の一周の初稿が変わるからです。

変わらないのは、人が決める部分

AIの出力は判断材料であって、決定ではありません。目的、事実の正しさ、リスク、そして何を標準にするかは、AI活用前後を通じて人が決め続けます。

この線引きを曖昧にすると、速いけれど誰も責任を取れない状態になります。逆にすべてを人が確認しようとすると、AIを入れた意味がなくなります。段階ごとに「AIが支援すること」と「人が必ず決めること」を分けておくことが、SPIRALを回す前提になります。

SPIRALの6段階|各段階でAIが支援すること、人が決めること

ScanからLearnまでの6段階について、AIが支援する内容と人が決める内容を段階ごとに並べた図

ここからは6段階を順に見ていきます。各段階について、中心となる問い、AIが支援すること、人が必ず決めること、その段階を終えたと判断できる出口の4点で整理します。

S|Scan(顧客・市場の把握)

Scanの問いは「誰の、どんな変化を狙うか」です。入口になるのは、事業目標と、顧客・市場・実績のデータです。2周目以降は、ここに前回のLearnが加わります。

AIは、顧客の声や商談メモや実績の整理、顧客グループごとの分析、競合との比較、足りない情報の洗い出し、課題と機会の仮説づくりを支援します。人が決めるのは、事業目標、対象顧客、優先課題、使うデータ、そして今回は取り組まない範囲です。

出口は、対象・課題と機会・狙う変化・根拠・自社ならではの情報・制約条件を、一枚で説明できる状態です。ここでいう自社ならではの情報とは、顧客の声、実績や事例、現場の経験、自社サービスの強みなど、ネットやAIの一般知識だけからは作れないものを指します。具体的な打ち手をつくり始めた時点で、次のPrototypeに移っています。

P|Prototype(AI初稿の作成)

Prototypeの問いは「何を試すか」です。Scanで対象と課題と目的がはっきりしていることが入口になります。

AIが支援するのは、施策やテーマや訴求の選択肢出しと、記事・広告・LP・メールなどの初稿作成です。構成やコピーやCTAや導線、媒体別・顧客別の案、評価指標の候補もここで出します。人が決めるのは、試す仮説と顧客への約束、採用する案と見送る案です。あわせて、自社ならではの情報の入れ方、成功と失敗の条件、予算と期間も決めます。

出口は、採用した仮説、施策やコンテンツの初稿、届ける対象と方法、CTAと導線、評価指標がひも付いた状態です。採用する方向を前提に公開品質へ引き上げ始めたら、Improveに入っています。

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I|Improve(AI初稿の改善)

Improveの問いは「顧客へ届けられる品質か」です。評価できるたたき台があることが入口になります。

AIは、品質基準に沿った評価、事実確認の支援、論理の飛びや不足情報の検出、顧客や専門家や初見の読者の視点でのレビュー、文体の統一、複数案の比較と修正を支援します。人が決めるのは、主張が妥当か、誤解を招かないか、自社らしいか、ブランドと法務と倫理の観点で問題ないか、そして公開してよい品質かどうかです。

出口は、公開・配信できる制作物、人による最終承認、計測の設定が揃った状態です。実際に顧客へ届けた瞬間からReachになります。ここで中核の仮説を変えたくなった場合は、Improveを続けるのではなくPrototypeへ戻ります。

R|Reach(顧客への配信)

Reachの問いは「誰に、どこで、どう届けるか」です。公開できる施策と計測方法があることが入口になります。

AIは、媒体別の変換、顧客別の出し分け、配信の支援、初回のタイミングと頻度の設計、複数媒体への展開、属性による出し分け、施策ログの整備を支援します。反応を見たあとの最適化はAdjustの担当なので、ここには含めません。人が決めるのは、届ける対象、媒体と頻度と予算、同意と個人情報の扱い、自動化してよい範囲、そして止めるときの条件です。

出口は、顧客へ実際に届き、対象・媒体・時期・内容・バージョンと反応を並べて比較できる状態です。Reachは、仮説と実際の反応を分ける境目にあたります。

A|Adjust(反応後の調整)

Adjustの問いは「反応から何を直すか」です。実際の反応と施策の条件を追跡できることが入口になります。

AIが支援するのは、媒体別・顧客別・期間別の成果の分解と、離脱や異常の検出です。原因の仮説出し、成功と失敗の比較、見出しや訴求やCTAの修正版づくり、再計測もここに入ります。人が決めるのは、数字が動いた理由と優先する指標、相関と因果の区別です。そのうえで、変更するか維持するか停止するか、修正版を出してよいかを判断します。

出口は、反応を踏まえて変更・維持・停止を判断し、何をなぜそうしたかが記録され、その後を再計測できる状態です。ここで大切なのは、何も変えないという判断もAdjustの結論になり得ることです。理由を説明できるなら、維持も正当な出口です。

L|Learn(学びの蓄積)

Learnの問いは「次回から何を基本にするか」です。施策の条件、反応、人の判断が記録されていれば入口に立てます。変更があったかどうかは問いません。

AIは、結果と判断の整理、成功と失敗のパターンの抽出、次にAIへ渡す情報や指示の更新、テンプレートや仕事の進め方や品質基準の更新を支援します。人が決めるのは、一時的な結果か次にも使えるか、どんな条件なら使えるか、何をどこに残すか、誰が更新するかです。

出口は、次にAIへ渡す情報・判断基準・型のいずれかが更新され、その適用条件を説明できる状態です。更新後の状態から新しい状況や課題を調べ始めたら、次のScanが始まっています。

SPIRALの段階は、作業名ではなく「揃ったもの」で決まる

ScanからLearnまでの6段階を縦に並べ、各段階を終えて次へ進むための条件を右側に対応させた図

SPIRALを実際に回すと、いちばん迷うのは「いま自分たちはどの段階にいるのか」です。作業の名前で判断すると間違えます。レビューをしたからImproveは終わった、レポートを書いたからAdjustは終わった、とは限らないからです。

SPIRALでは、段階ごとに「これが揃ったら次へ進める」という条件を先に決めておき、その条件が揃ったかどうかだけで判定します。条件は次の6つです。

段階の切り替わり次へ進める条件よくある勘違い
Scan → Prototype誰に・何を・なぜ試すかを説明できる情報収集の途中で案を出しただけではPrototypeではない
Prototype → Improve評価できる最初の形がある中核の仮説を変える作業をImproveと呼ばない
Improve → Reach人が公開可能と判断し、計測の設定もあるAIによる読者役や社内レビューは実際の市場反応ではない
Reach → Adjust施策の条件と、実際の反応を追跡できる測定・分析・レポートだけではAdjustは未完了
Adjust → Learn変更・維持・停止を理由つきで決め、その後を確認できる振り返りメモを残しただけではLearnではない
Learn → ScanAIに渡す情報・判断基準・型が更新され、適用条件を言える同じ情報をそのまま再実行するだけでは新しいScanではない

進捗会議で「レビュー中です」「分析中です」と聞いたら、作業の名前ではなく、この条件が揃っているかを聞き返してください。答えられなければ、その段階はまだ終わっていません。

終わった気になりやすい3つの場面

社内レビュー・レポート作成・振り返り議事録の3つの作業について、実際にいる段階と次へ進める条件を並べた図

とくに取り違えが起きやすい場面が3つあります。どれも作業は終わっているのに、段階の出口には届いていません。

1つ目は、社内レビューを通した場面です。社内レビューも、AIに読者役をさせたレビューも、市場へ出す前の改善であるImproveの中の作業です。実在する顧客接点に出るまでは、すべて仮説のままです。

2つ目は、反応をレポートにまとめた場面です。数字を並べただけでは施策は何も変わっていません。出した後の改善であるAdjustは、変える・続ける・止めるのどれかを理由つきで決めたときに出口へ立ちます。

3つ目は、振り返りの議事録を残した場面です。記録はLearnの入口であって出口ではありません。書いたものが次にAIへ渡す情報や判断基準へ反映されるまでは、次の一周の起点は前回のままです。

Adjustのあと、どこへ向かうか

Adjustのあとの行き先を、Reachへ戻す・Prototypeへ戻る・Learnへ進むの3つに分けて示した図

Adjustの出口は一つではありません。同じ「直す」でも、仮説を変えるかどうかで行き先が変わります。

対象・約束・仮説を変えない修正であれば、Adjustの中で直して、同じ顧客接点へReachから出し直します。見出しやCTAの差し替え、配信タイミングの変更などがこれにあたります。

一方、対象・約束・仮説そのものを変える必要が分かったなら、Prototypeへ戻ります。施策をつくり直し、Improveを通し直してから、あらためて届けます。つくり直しをAdjustの中で済ませてしまうと、何を検証したのかが後から分からなくなります。

そして、変更・維持・停止を決めてその後を確認できたら、Learnへ進みます。この3つの行き先を意識しておくと、小さな出し直しをImproveと呼んだり、つくり直しをAdjustと呼んだりする取り違えが減ります。

SPIRALのLearnで何を残すと、次の一周が変わるのか

Learnで蓄積する4種類の学びが、次にAIへ渡す情報・判断基準・型に集約され、次の一周へつながる構造を示した図

Learnは、記録を残す工程ではなく、次回の初期状態を変える工程です。ここが弱いままだと、6段階を何周しても一周目と同じ場所から始めることになります。

蓄積する4種類の学び

残すべき学びは、次の4種類に分けて考えると整理しやすくなります。

学びの種類蓄積する内容残す場所次の循環で変わること
顧客・市場の学び反応の良い課題、テーマ、訴求、顧客別の関心、検討段階、失敗した仮説顧客像/顧客グループ/AIに渡す情報/学びのメモ次のScanで見るべき情報と、Prototypeの方向が変わる
制作・品質の学び人による修正、事実確認の観点、自社らしい表現、避ける表現、成果につながった構成品質基準/テンプレート/文体・表現ルール/AIの評価項目次のPrototype・Improveの初稿と評価の精度が上がる
配信・改善の学び媒体・顧客・タイミング別の反応、CTA・導線・頻度・出し分けの結果配信ルール/実験履歴/媒体別テンプレート/改善パターン次のReach・Adjustで、届け方と修正案の精度が上がる
組織・運用の学びAIと人の分担、承認箇所、自動化してよい範囲、手戻りの原因、担当者の判断基準仕事の進め方/役割分担/チェックリスト/AIを使う範囲担当者が変わっても、同じ品質で進めやすくなる

4種類のうち、後回しにされやすいのが制作・品質の学びです。人が直した箇所は、直した瞬間に忘れられます。どこをなぜ直したかを表現ルールや評価項目として書き戻すと、次の初稿でその修正が不要になります。

更新するのは人でもAIでもよい

Learnについて誤解されやすいのが、使い続ければAIが自動的に賢くなるという理解です。SPIRALのLearnは、AIが結果を勝手に取り込む工程ではありません。

一方で、更新の担い手を人に限定しているわけでもありません。人が手で書き戻すこともあれば、AIに学習の仕組みを持たせて自動で更新することもあります。分かれ目は担い手ではなく、何を残すか、どこまで自動にしてよいかを人が決めているかどうかです。

選ぶという行為が必要なのは、すべての結果が再利用できるわけではないからです。たまたまの結果を標準にすると、次の一周から精度が下がります。適用できる条件を説明できない結果は、標準にせず仮説として残します。次の一周で同じ条件をつくって再現できたときに、初めて標準へ引き上げます。

学びが個人ではなく組織に残っているか

Learnが完了したかは、次の問いで確かめられます。同じ依頼をもう一度したとき、前回よりよい初稿や判断が返ってくるか。返ってこないのであれば、学びはまだどこにも残っていません。

この問いは、担当者を入れ替えても成立します。別の人が同じ依頼をして同じ水準の答えが返るなら、学びは個人の記憶ではなく、仕事の進め方の側に残っています。逆に、特定の人が使ったときだけ品質が上がるなら、それはまだ個人の工夫です。

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GiftXがSPIRALで実際に回していること

SPIRALは、GiftX自身のマーケティングとコンテンツ制作の運用から整理したモデルです。ここでは、記事1本を一周の単位としたときに、6段階が実際にどう動いているかを紹介します。

ScanからPrototypeまで|実測データと自社の情報を起点にする

GiftXでは、記事1本の制作を10の工程に分け、それぞれでAIが支援する範囲と人が判断する範囲を決めています。Scanにあたるのは、検索実測データと商談メモから対象読者と優先課題を決める工程です。Prototypeでは、キーワードを入力するとAIが競合調査から構成づくり、初稿の執筆までを進めます。

この運用によって、1記事あたりの作業時間は約4時間から約10分まで短縮され、工数を約95%削減しました。工程を分けたこと自体が、PrototypeとImproveの境界を運用に落とし込んだ結果でもあります。仕組みの詳細は関連記事:AIで記事制作を自動化する仕組み|質と独自性を高める「AI編集部」のつくり方にまとめています。

ImproveからReachまで|人が確かめ、1本を複数媒体へ広げる

Improveでは、担当者がレビューと最終調整に集中します。事実確認と、自社らしい表現かどうかの判断は人が担い、AIは品質基準に沿った指摘と修正案づくりを担当します。

Reachの段階では、同じ内容を媒体ごとに作り直すのではなく、AIによる媒体変換を前提に設計します。GiftXでは、1つの調査から5媒体・9記事へ展開する運用を行っています。調査そのものも、設計から集計・分析・レポート制作までを生成AIで進めています。仮説の設計、3段階の検算、示唆の抽出まで工程ごとにAIと人の分担を決めた事例は、関連記事:AIでアンケート調査から分析・レポートまで作った事例|設計・集計・示唆の抽出の全工程で公開しています。

AdjustとLearn|修正の理由を残し、次の初稿を変える

公開後は、検索の実測データを見て、変える・維持する・止めるを判断します。ここで対象や狙いを変えないタイトルや導線の修正であれば、そのまま出し直します。狙う読者そのものを変える判断になったときは、Prototypeへ戻して構成からつくり直します。

Learnで実際に何をしているかというと、人が直した箇所とその理由を、品質基準・表現ルール・AIの評価項目に書き戻す作業です。同じ指摘が2回出た時点で、それは個別の修正ではなく標準にすべき基準だと判断します。この考え方は、やったことがない仕事を立ち上げるときにも同じように働きます。調べ方の設計、良し悪しを見分ける目、たたき台づくり、一次情報での裏取りという進め方は、関連記事:「やったことがない」を「AIとならできる」に。未経験の仕事を立ち上げる進め方で具体的に紹介しています。

SPIRALをチャットとAIエージェントのどちらで回すか

6段階は、汎用のチャット型AIツールだけでも回せます。ただし段階によって向き不向きがあるため、どこまでチャットで進め、どこからAIエージェントに任せるかを決めておくと、途中で止まりにくくなります。

チャットで回す場合

ScanとPrototypeとImproveは、チャットでも進みます。顧客の声や商談メモを貼って課題を整理させる、訴求の選択肢を出させる、初稿を書かせる、品質基準を渡して不足を指摘させる、といった使い方です。届ける前の工程は、ほぼチャットで完結します。

ReachとAdjustは手作業が増えます。媒体ごとの作り直し、配信、結果の集計は人が動かすことになり、施策の条件と反応をひも付けて記録する作業も手で行います。記事1本や施策1つの単位であれば、この形でも一周は回せます。

Learnがいちばん抜けやすいところです。チャットは会話が流れていくため、人が直した理由を意識的に書き戻さないと、次の一周に何も残りません。修正した箇所と理由をテンプレートや品質基準に反映する時間を、明示的に取る必要があります。

AIエージェントで回す場合

AIエージェントに移すと、自社の情報と品質基準をあらかじめ持たせておけます。ScanとPrototypeの初稿は、毎回同じ前提から始まるため、担当者が変わっても出力の水準がそろいます。

ReachとAdjustの負荷も下がります。媒体別の変換や顧客別の出し分けを任せられ、施策の条件・配信日・反応が記録として残るので、Adjustで比較する材料が自動でそろいます。Learnで書き戻す先も、エージェントに渡す情報そのものになります。

向いているのは、コンテンツの本数が多い場合、複数の媒体へ展開する場合、複数人が同じ基準で制作する場合です。月に数本の運用であれば、チャットのままでも十分に成立します。

どちらから始めるか

まずチャットでScanからLearnまでを1周することをおすすめします。1周すると、どの工程で時間が溶けているか、どこを標準化すれば次が楽になるかが具体的に分かります。

そのうえで、毎回同じ前提を貼り直している工程や、記録が残らずAdjustが感想になっている工程から、AIエージェントに移します。

AI Marketing SPIRALとAI Work MASTERの使い分け

GiftXは、マーケティングの循環モデルであるSPIRALとは別に、業務設計モデル「AI Work MASTER(マスター)」を提唱しています。2つは競合せず、扱う対象が違います。

SPIRALはマーケティングを回す運用のとき、MASTERは業務にAIを組み込む設計のときに使います。MASTERの対象は繰り返し発生する業務ひとつで、出口は次の担当者が同じ基準で始められる業務の型です。

構造も違います。設計は一度終わり、運用は回り続けます。だからMASTERは一方向で、SPIRALは循環になります。順序としては、MASTERで業務の型をつくり、その型を使ってSPIRALを回す形です。型の日常的な更新はSPIRALのLearnが担い、AIや前提や品質が変わったときの作り直しはMASTERのMapへ戻ります。詳しくは関連記事:AI時代の業務設計モデル「AI Work MASTER(マスター)」とはで解説しています。

なお、2つを併記するときは、S・A・Rの3文字が両方の段階名に現れます。一文字だけで段階を指さず、英語名か日本語を添えてください。

AI Marketing SPIRALと既存フレームワークとの違い

マーケティングには先行するモデルが数多くあります。SPIRALはそれらを置き換えるものではなく、扱う対象が違います。代表的な2系統との違いを整理します。

消費者行動モデルとの違い

AIDMA(Samuel Roland Hall、1924年)、AISAS(電通、2004年)、ULSSAS(ホットリンク、2019年頃)などは、消費者の行動や心理の移り変わりをモデル化したものです。主語は消費者で、企業が何をするかは直接には示しません。

SPIRALの主語は企業・マーケター・マーケティング組織です。顧客がどう動くかではなく、企業側がどう仕事を回すかを扱います。したがって両者は競合せず、Scanの段階で顧客理解の枠組みとして消費者行動モデルを使うといった併用ができます。

計画・改善モデルとの違い

PDCA(Walter A. ShewhartとW. Edwards Demingに関連、20世紀中盤)やSOSTAC(PR Smith、1990年代)は、計画から実行・評価・改善までの管理の循環を扱います。主語は組織や担当者で、SPIRALと重なります。

違いは2点です。1つは、これらのモデルがAIを前提にしていないため、どの工程でAIが何を支援し、人が何を決めるかを示さないことです。もう1つは、SPIRALがLearnを独立した段階として置き、次にAIへ渡す情報の更新まで含めている点です。PDCAのActは「改善する」ですが、SPIRALはAdjust(今の施策を直す)とLearn(次回の標準を変える)を明確に分けています。

SPIRALを回し始めてから陥りがちな3つのつまずき

段階の意味が分かっていても、実際に回し始めると別のところで止まります。GiftXが自社で回し、支援先と一緒に回してきた中で、繰り返し出てくるのが次の3つです。

つまずき1|一周の単位が大きすぎて、最後まで回らない

一周の粒度は施策単位でもキャンペーン単位でも成立しますが、最初の一周でいきなりキャンペーン全体を選ぶと止まります。関係者が増え、承認も増え、Reachまでに数週間かかるためです。反応が出るころには次の企画が始まっていて、AdjustもLearnも手つかずで終わります。

最初の一周は、一つの仮説を市場の反応まで運べる最小の単位で切ります。記事1本、メール1通、広告クリエイティブ1本で構いません。小さくすると、6段階のどこで詰まるかが1〜2週間で分かります。詰まる場所が分かってから粒度を上げるほうが、結果的に速く進みます。

つまずき2|Improveの確認時間を工数に入れていない

AIで初稿が10分で出ると、その10分だけを工数として見積もってしまいます。実際に必要なのは、事実確認と、自社らしい表現かどうかの判断と、公開してよいかの最終確認です。この時間を確保していないと、Improveの出口を守れません。

起きるのは、確認を飛ばした制作物が増えることです。Reachまでは進むので一見回っているように見えますが、公開後に事実誤りや表現の手直しが発生し、Adjustで直す量が増えます。見積もりを直すときは、初稿にかかる時間ではなく、1本を公開できる状態にするまでの時間で数えます。

つまずき3|Learnを書き戻す人が決まっていない

Learnは、担当が決まっていないと最も簡単に飛ばせる段階です。施策が終わった時点で次の施策が始まっているため、書き戻す時間は誰かが意識して取らないと生まれません。

決めるのは2つだけです。次にAIへ渡す情報や判断基準を更新する人と、更新する時点です。更新の時点は「施策が終わったら」ではなく、Adjustで判断を下したその場に置くと飛びません。人が手で更新するか、AIの仕組みで自動更新するかは問いませんが、誰が責任を持つかだけは決めておきます。

まず1コンテンツを型にしてから、本数を増やす

3つに共通するのは、量から入っていることです。順序を逆にして、まず1コンテンツを最後まで型にすることをおすすめします。

1本を通してScanからLearnまで回すと、どの工程でAIに何を渡せばよいか、人がどこを必ず確認するか、何を書き戻せば次の初稿が変わるかが具体的に分かります。その1本の型ができてから本数を増やすと、確認の負荷が線形には増えません。型づくりから内製化までを外部と進めたい場合は、GiftXのAI活用コンテンツ制作支援もご検討ください。

まとめ

AI時代のマーケティング循環モデル「AI Marketing SPIRAL」は、Scan(知る)、Prototype(つくる)、Improve(仕上げる)、Reach(届ける)、Adjust(直す)、Learn(学ぶ)の6段階で、AIと人の分担を整理したモデルです。

段階は作業の名前ではなく、何が揃ったかで判定します。Reachより前は仮説、Reachより後は実際の市場の反応です。Improveは市場へ出す前の改善、Adjustは出した後の改善で、Learnは次にAIへ渡す情報・判断基準・型を更新します。Learnが完了したと言えるのは、そのどれかが更新され、適用条件を説明できるときです。

AI時代のマーケティングフレームワークとして使ううえで、一度に全体を作り替える必要はありません。検証工程を持ったうえで、まず1コンテンツを型にすることが出発点になります。一周を終えたときに次の初稿がよくなっていれば、そのスパイラルはすでに回り始めています。

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飯髙 悠太
マーケティングエキスパート

GiftX代表。ベーシック執行役員、ホットリンクCMOを経て2022年にGiftX創業。200社以上のマーケティング支援実績を持ち、AI×マーケティング領域の実践支援にも注力。著書に『BtoBマーケティングの基礎知識』『僕らはSNSでモノを買う』など、5冊のマーケティング専門書を執筆。

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