AI導入と研修で使える補助金・助成金の全体像|まず違いを押さえる
AI関連の公的支援は、大きく「人への投資を支える助成金」と「ツール・設備への投資を支える補助金」に分かれます。この2つは財源も申請先も異なるため、まず違いを押さえておくと制度選びで迷いません。
助成金と補助金は財源と採択の有無が違う
助成金は主に厚生労働省が所管し、雇用保険料を財源としています。要件を満たして正しく手続きすれば、原則として受給できるのが特徴です。一方の補助金は主に経済産業省・中小企業庁が所管し、税金を財源としています。予算の上限があり、公募期間内に申請して審査を通過した事業者だけが採択されます。
つまり、研修費用に使う助成金は「要件を満たせるか」が勝負どころで、ツール導入に使う補助金は「公募期間に間に合うか」「審査に通る計画を書けるか」が勝負どころになります。同じ「お金が戻ってくる制度」でも、準備すべきことの性質が違う点は最初に理解しておきたいところです。
2026年度はAI導入側の制度名が変わった
ツール導入に使う制度として広く知られてきたIT導入補助金は、2026年度(令和8年度)に「デジタル化・AI導入補助金2026」へと名称が変わりました。単なるITツールの導入にとどまらず、AIの活用まで含めたデジタル化を後押しする方向に制度の狙いが広がっています(2026年7月時点、出典: it-shien.smrj.go.jp)。
検索でIT導入補助金の情報にたどり着いた場合、掲載されている補助率や上限額が前年度のものである可能性があります。制度名が変わった年は情報が混在しやすいため、金額を確認するときは必ず最新の公募要領を見るようにしてください。
なぜAIツールの導入と研修をセットで考える必要があるのか
補助金でAIツールを導入すれば、それだけで業務が変わるわけではありません。実際には、ツールを入れた後に「使われないまま終わる」ことのほうが起こりやすいのが実情です。
ツールを入れただけでは使われ方が浅いまま止まる
GiftXがビジネス職を対象に実施した調査では、AIの活用レベルがチャットでのやりとりにとどまっている層が全体の70.3%を占めていました。AIを使ってはいるものの、業務の一部を任せる段階まで進めている層はごく一部にとどまります。ツールの契約数を増やすことと、業務の成果が変わることの間には、かなりの距離があるということです。
この差が生まれるのは、ツールの操作方法を知っていることと、自分の業務のどこを任せられるか判断できることが別のスキルだからです。補助金でツールを導入した企業が、しばらくして「ライセンスは配ったが誰も使っていない」と気づくのは珍しくありません。導入費用に補助が出ても、使われなければ投資は回収できず、翌年の予算要求も通りにくくなります。
組織側の課題は学ぶ機会の不足に集中している
同じ調査で組織側の課題を尋ねたところ、上位には次の項目が並びました。ツールそのものの不足ではなく、使い方を学ぶ機会や仕組みが足りていない、という声が中心を占めています。
| 調査項目 | 回答率 |
|---|---|
| 組織の課題1位: AI活用が個人任せになっている(複数回答) | 25.9% |
| 組織の課題2位: 学ぶ機会・研修制度がない(複数回答) | 20.6% |
| 活用意向: もっと活用したい | 59.9% |
活用意向そのものは約6割あり、意欲が足りないわけではありません。足りていないのは、業務に紐づけて使い方を学ぶ機会のほうです。だからこそ、ツール導入に補助金を使うのであれば、同時に研修へ助成金を使い、人の側の準備も並行して進める設計が理にかなっています。
詳細な調査データは「ビジネス職生成AI活用実態調査(2026年版)」にてご覧ください。
AI導入と研修で使える制度の使い方|ツールは補助金・研修は助成金
ここからは、実際に使える制度を対象経費ごとに見ていきます。押さえるべき軸はシンプルで、「人にかかる費用は助成金」「ツール・機器にかかる費用は補助金」です。
研修に使う|人材開発支援助成金の3コースと助成率
社員へのAI研修に使う制度の中心が、厚生労働省の人材開発支援助成金です。AI研修と相性がよいのは次の3コースです。
| コース | 主な対象 | 中小企業の経費助成率 | 賃金助成 |
|---|---|---|---|
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業展開などに伴う新たな知識・技能の習得 | 最大75% | 1,000円/時 |
| 人への投資促進コース | 高度デジタル人材の育成など5つの助成メニュー | 45%〜75% | 760円〜960円/時 |
| 人材育成支援コース | 職務に関連した専門的な知識・技能の習得 | 訓練内容により変動 | 訓練内容により変動 |
このうち助成率が最も高いのが事業展開等リスキリング支援コースで、中小企業なら研修費用の経費助成率は最大75%、加えて受講時間分の賃金として1人1時間あたり1,000円が助成されます(2026年7月時点、出典: mhlw.go.jp)。ただしこのコースは令和8年度(2027年3月末)までの時限措置とされている点に注意が必要です。使う予定があるなら、期限から逆算して計画を立てる必要があります。
なお、いずれのコースも助成率は企業規模や訓練内容によって変わります。上の表は目安として捉え、実際の金額は最新のパンフレットで確認してください。
関連記事:AI研修に使える助成金・補助金|最大75%補助の主要制度と申請方法を解説
ツール導入に使う|デジタル化・AI導入補助金2026の補助率と上限
AIツールやシステムの導入費用に使えるのが、経済産業省・中小企業庁が所管するデジタル化・AI導入補助金2026です。枠によって補助率と上限額が異なります。
| 枠 | 補助率 | 補助上限額 |
|---|---|---|
| 通常枠(1プロセス以上) | 原則1/2以内 | 5万円〜150万円未満 |
| 通常枠(4プロセス以上) | 原則1/2以内 | 150万円〜450万円 |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 50万円以下の部分は3/4、50万円超〜350万円の部分は2/3 | 350万円 |
通常枠の補助率は原則2分の1以内で、導入するツールが業務プロセスをいくつカバーするかによって上限額が変わります(2026年7月時点、出典: it-shien.smrj.go.jp)。補助対象になるのは事務局に登録されたITツールに限られるため、使いたいAIツールが登録済みかどうかを先に確認しておくと手戻りがありません。
研修とセットで機器を入れる|設備投資加算で上乗せする
研修とツール導入をつなぐ制度として押さえておきたいのが、事業展開等リスキリング支援コースの設備投資加算です。訓練終了後に、その訓練内容に関連する機器などを導入した場合、購入費用の50%(上限150万円)が上乗せで助成されます(2026年7月時点、出典: mhlw.go.jp)。
この加算があるため、「先に研修で人を育て、その後に必要な機器をそろえる」という順番で進めると、研修費用と機器費用の両方に助成が効きます。研修を単体のイベントとして捉えるのではなく、投資計画の入り口として位置づけると制度を活かしやすくなります。
どちらを使うか|対象経費から逆算して選ぶ
制度が多く見えても、判断は「その費用が人にかかるものか、モノにかかるものか」でほぼ決まります。
| 使いたい費用 | 使う制度 | 所管 |
|---|---|---|
| 外部研修の受講料・講師費用 | 人材開発支援助成金 | 厚生労働省 |
| 受講中の社員の賃金 | 人材開発支援助成金(賃金助成) | 厚生労働省 |
| AIツール・システムの導入費用 | デジタル化・AI導入補助金2026 | 経済産業省・中小企業庁 |
| 訓練後に導入する関連機器 | 人材開発支援助成金(設備投資加算) | 厚生労働省 |
迷ったときは、見積書の項目を一行ずつ見て、それが人件費・研修費なのか、ツール・機器の購入費なのかを分けてみてください。制度の名前から入るより、経費の性質から入るほうが早く絞り込めます。
併用はできるのか|同一経費の重複受給だけ避ける
結論として、人材開発支援助成金とデジタル化・AI導入補助金は併用できます。前者は人への投資、後者は設備・ツールへの投資を支えるもので、目的が異なるためです。ツールを補助金で導入し、そのツールを使いこなす人材の育成を助成金で支える、という組み合わせが想定されています。
ただし、同一の経費に対して複数の制度から重複して受給することは原則として認められていません。たとえば、同じ研修費用を2つの制度に同時に申請するような使い方はできません。逆に言えば、経費をきちんと切り分けられていれば、ツール側と人側でそれぞれ制度を使うことに問題はありません。申請前に、どの費用をどの制度に割り当てるかを一覧にしておくと安全です。
申請の流れ|実施前の手続きが先、費用の請求は後
どの制度にも共通するのが、「先に手続き、後で実施」という順番です。研修を実施してから助成金の存在に気づいても、原則として遡って申請することはできません。
人材開発支援助成金では、訓練を始める前に訓練計画届を労働局へ提出し、計画に沿って訓練を実施したうえで、終了後に支給申請を行う流れが基本です。デジタル化・AI導入補助金では、公募期間内に交付申請を行い、交付決定を受けてからツールを発注・導入し、実績を報告して補助金の請求に進みます。いずれも、決定を受ける前に発注や実施をしてしまうと対象外になる点が共通しています。
申請書類や期限の詳細は制度ごとに異なるため、実務の手順はAI研修に使える助成金の申請方法|計画届から支給申請までの流れと必要書類も併せて確認してください。
全国8,000人調査で、AI活用方法によって生産性向上に約3.8倍の差が生まれることが判明。
事例|研修とツール導入を一体で進めた取り組み
制度を使って費用を抑えても、研修が現場で使われなければ投資は回収できません。GiftXが支援した取り組みから、研修とツール活用を一体で進めた例を紹介します。
業務を教材にした部門別研修で利用率を約3.5倍に
ある企業では、部門ごとに実際の業務のユースケースを教材にした生成AI研修を設計・実施しました。座学で終わらせず、受講者が自分の業務でAI活用を1つ作って持ち帰る形式にしたところ、研修後の業務利用率は約2割から約7割へと、約3.5倍に伸びています。ツールの使い方を一般論として教えるのではなく、目の前の業務に紐づけたことが定着につながりました。
活用度を計測して投資対効果を説明できる状態にする
別の取り組みでは、部門別のAI利用状況、自動化された業務、削減できた工数を定点で計測しました。導入後の利用状況が把握できていなかった状態から、部門別の活用度を月次で可視化できる状態になり、活用が止まっている部門のボトルネックを特定できるようになっています。この計測結果は、投資対効果を社内に説明する材料としても機能します。制度を使って導入した後、成果を報告する場面でも役立つ考え方です。
Before/After|制度活用で研修・導入費用の自己負担はどう変わるか
制度を使うと自己負担がどう変わるのか、研修とツール導入を一体で進めるケースで考えてみます。以下は制度の助成率から導いた考え方の例であり、実際の金額は要件や審査の結果によって変わります。
関連記事:生成AI研修に使える助成金とは|対象・実質負担・申請手順を中小企業向けに整理
Before|すべて自己負担で進める場合
社員20名にAI研修を実施し、あわせて業務で使うAIツールを導入する計画を立てたとします。研修費用が200万円、ツール導入費用が300万円かかるとすると、合計500万円がそのまま自己負担になります。この金額を単年度の予算で確保するのは、多くの中小企業にとって簡単ではありません。検討が止まる典型的な地点がここです。
After|研修とツールで制度を分けて使う場合
研修費用200万円に事業展開等リスキリング支援コースを適用し、経費助成率75%が認められれば、助成額は150万円となり自己負担は50万円まで下がります。受講時間分の賃金助成も加われば、さらに負担は軽くなります。ツール導入費用300万円にデジタル化・AI導入補助金の通常枠を適用し、補助率2分の1が認められれば、補助額は150万円となり自己負担は150万円です。
合わせると、自己負担は500万円から200万円程度まで圧縮できる計算になります。金額の大きさよりも重要なのは、負担が減ることで「今年やるか、来年に回すか」の判断が変わることです。制度を使えるかどうかが、着手時期そのものを左右します。
すぐ使える補助金・助成金の制度選定チェックリスト
自社がどの制度に進めばよいかを判断するために、次の項目を上から順に確認してみてください。
- 使いたい費用は「人にかかる費用」か「ツール・機器にかかる費用」か、見積項目ごとに切り分けたか
- 自社は中小企業の定義に当てはまるか(業種ごとに資本金・従業員数の基準が異なる)
- 雇用保険の適用事業所であり、保険料の滞納がないか(助成金の前提条件)
- 研修は業務に関連する内容で、受講対象は雇用保険の被保険者か
- 導入予定のAIツールは、補助金事務局に登録されたITツールに含まれるか
- 実施・発注の前に、計画届の提出や交付決定を受けるスケジュールを確保できるか
- 研修とツール導入で、同一経費に重複して申請していないか
- 受講記録や支払い証憑を、支給申請まで保管できる体制があるか
上から4つまでが「使えるかどうか」の入口、残りが「取りこぼさないため」の確認項目です。特に最後から3番目の実施前手続きは、後から取り返しがつかないため最優先で押さえてください。
AI導入と研修を同時に進めるときに陥りがちな3つの落とし穴
制度を使って費用を抑えられたとしても、進め方を誤ると成果につながりません。むしろ、補助が出ることで判断が甘くなり、規模を広げすぎてしまうこともあります。支援の現場でよく見かけるつまずき方を3つ挙げます。
落とし穴1:いきなり全社・全部門に広げようとする
助成金の上限まで使い切ろうとして、対象人数を一気に広げる進め方です。受講者が増えるほど内容は一般論に寄り、自分の業務との接点が薄れます。結果として、受講はしたが使われない研修になりがちです。
落とし穴2:壮大なAI戦略から考えて手が止まる
全社のAI活用構想を描くところから始めると、対象業務の優先順位づけだけで数か月が過ぎます。制度には公募期間や時限措置があり、検討している間に使える期限が近づいてしまいます。
落とし穴3:既製のチャット型AIでは業務フローに組み込めない
汎用のチャット型AIを配っただけでは、既存の業務フローに入り込みません。都度プロンプトを打つ手間が残り、調査で見られた「チャット止まり」の状態から抜け出せないままになります。
スモールスタートで1業務をAIに任せる
現実的なのは、対象を1部門・1業務に絞り、その業務を実際にAIに任せられる形まで作り切ることです。まず1つ成功例を作れば、社内での説明材料になり、次の業務へ横展開する判断もしやすくなります。制度を使うときも、上限額から逆算するのではなく、成果が出る単位から逆算して計画を組むほうが、投資が回収しやすくなります。
制度を活かしてAI研修を始めたい方へ
ここまで紹介した「1部門・1業務から実務に紐づけて始める」進め方を、自社で実践したいとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
GiftXでは、実際の業務を教材にした生成AI研修「GiftXのAI活用研修」を提供しています。座学で終わらせず、受講者が自分の業務で1つ自動化を持ち帰る形式で、研修後の定着までを支援します。助成金の対象になりやすい研修設計や、活用度の計測による効果の可視化にも対応しています。
詳細はGiftXのAI活用研修のサービスサイトでご覧いただけます。
よくある質問
助成金と補助金の違いは何ですか
財源と採択の有無が異なります。助成金は雇用保険料を財源とし、要件を満たせば原則として受給できます。補助金は税金を財源とし、予算の上限があるため、公募期間内に申請して審査を通過する必要があります。
AI研修とAIツール導入で制度は併用できますか
併用できます。人材開発支援助成金は人への投資、デジタル化・AI導入補助金は設備・ツールへの投資を支える制度で、目的が異なるためです。ただし同一の経費に対して重複して受給することは原則としてできないため、費用の切り分けが必要です。
IT導入補助金という名前の制度は2026年度もありますか
2026年度(令和8年度)は「デジタル化・AI導入補助金2026」へ名称が変わっています。ITツールの導入に加えて、AIの活用を含むデジタル化を支援する方向に狙いが広がりました。検索で見つかる情報には前年度のものが混在するため、金額は最新の公募要領で確認してください。
研修を実施した後からでも申請できますか
できません。人材開発支援助成金は訓練開始前の計画届の提出が前提で、デジタル化・AI導入補助金も交付決定前の発注は対象外になります。実施や発注より先に手続きを済ませる順番を守ってください。
助成率は必ず最大値が適用されますか
適用されるとは限りません。助成率は企業規模や訓練内容、生産性要件を満たすかどうかによって変わります。最大75%はあくまで中小企業が条件を満たした場合の上限であり、自社に適用される率は最新のパンフレットや労働局への確認が必要です。
まとめ
AI導入と研修に使える制度は、「人にかかる費用は助成金、ツール・機器にかかる費用は補助金」という軸で切り分けると迷いません。研修には人材開発支援助成金が使え、中小企業なら事業展開等リスキリング支援コースで経費助成率は最大75%、訓練後の関連機器には設備投資加算で購入費用の50%が上乗せされます。ツール導入には、2026年度に名称が変わったデジタル化・AI導入補助金2026が使えます。両者は目的が異なるため併用でき、避けるべきなのは同一経費への重複申請だけです。
そのうえで成果を左右するのは、制度を使えるかどうかよりも進め方のほうです。上限額から逆算して対象を広げるのではなく、1部門・1業務に絞ってAIに任せられる状態まで作り切る。まず1つ成功例を作り、そこから横展開していく進め方が、結果として投資の回収を早めます。制度は、その最初の一歩を軽くするための手段として使うのが現実的です。
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